8. 老人患者の定率1割負担制が実施へ 

  NIKKEI DRUG information -2000/10-

 
老人患者の自己負担増を柱とする健康保険等改正案が、
11月2日に衆議院で可決され、12月1日の臨時国会最終日までに成立することが確実になっていた。施行は2001年1月とされているが、政令や通知類の作成作業などが控えているため、予定通りに1月から実施されるかどうかは微妙な情勢だ。同改正案は当初、2000年7月からの実施を目指し、2月の通常国会に上程されていた。だが、総選挙前に国民の負担増を招く施行を実施するのは得策ではないとする政府・自民党の判断から、4月にいったん廃案となり、秋の臨時国会に改めて提出されていた。改正案の中で最も注目されるのが、老人患者に対する定率負担制の導入だ。外来では、1日当たり530円(月4回まで)だった定額負担制が、上限付きの定率1割負担制へと移行する。自己負担の上限額(月額)は、院内処方を受けた患者と薬剤処方がなかった患者の場合、診療所と200床未満の病院では3000円、200床以上の病院では5000円となる。院外処方を受けた患者は半分ずつ(1500円または2500円)が、医療と薬局の双方での上限額となる。ただし診療所に限っては、事務所作業軽減のため、1日当たり800円(4月4回まで)の定額負担制も継続される。
定率制か定額制かの選択は、各診療所が行える。このほか、1日当たり1200円の定額負担制だった入院患者の自己負担も、低所得者への配慮を手厚くした上で、1割の定率負担制に改められる。この外来の上限額について、改正案の原案は、院外処方と院内処方のどちらが主かをあらかじめ医療機関に届けさせた上で、医療機関ごとに上限額を設定することにしていた。しかし、同じ治療を受けた患者でも自己負担額が異なるケースが多発することや、医療機関や薬局での窓口業務が複雑になり過ぎることなどに、日本薬剤師会をはじめとする医療関係団体が強く反発。これを受けて政府は、院外処方の有無に応じて、患者ごとに上限を定める方式に改めることにした。とはいえ、薬局における窓口業務の煩雑化は避けられそうにない。


定率負担制の場合には
1人の老人患者ついて毎月、その患者が通院するすべての医療機関について、自己負担の総額を計算する必要が出てくるからだ。患者データをパソコンで管理していない薬局は、特に苦労することになる。
また、原案に比べ発生頻度が少なくはなったものの、同じ病気で処方を受けた場合でも受診した医療機関によって薬局での負担が異なったり、負担なしとなるケースが、依然として出てくることになる。このことを患者に納得してもらうのは容易ではない。さらに、一つの医療機関が発行した処方せんを、患者が複数の薬局に持ち込んだ場合、個々の薬局では医療機関ごとの自己負担額を把握出来ないため、患者が上限額を超える自己負担を支払ってしまうこともあり得る。この点をどうするかについては改正案の成立後、改めて厚生省と日薬の間で検討される予だ。
1997年9月の薬剤一部負担金の制度が導入された際には、老人患者の受診抑制が起き、患者減少に見舞われた薬局が少なくなった。今回の制度改正により老人患者の受診動向がどのように変化するかが注目される。
なお、厚生省では高齢者医療制度改革案を
2002年の通常国会に提出し、2003年度から実施することを計画している。このため、上述した矛盾を内包する今回の上限付き定率負担制の導入は、それまでの過激的な制度に終わる可能性が高いと見られている。