基本的な考え方

伊沢凡人先生の「可逆的病変、不可逆的病変」という観点から言えば、 ガンは不可逆的病変であり、切除するか現状を維持するかいずれかである。それを年頭に、漢方の果たす役割をいろいろな角度から考察してみたい。
ガンはガン細胞そのものが 増殖し、転移する細胞であるとされている。しかし、その周りの環境を整備し、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞を活性化することによって、ガン細胞の増殖を抑制することは、可能である。

       

   漢方薬と西洋薬を比較する


一般的に西洋薬における抗ガン剤は、ガン細胞を直接叩こうとする。しかし、漢方薬は体全体の免疫力をあげ、コンデションを整えたりすることによって改善しようとする。BRM (biological response modifier=生体反応修飾物質)という概念である。
「ガン細胞を取り巻く環境」に何らかの作用を与え、その結果として
ガン細胞を抑制するのである。

ガンとは

ガンに対する考え方も変わりつつある。ガンはガン細胞そのものが 増殖し、転移する細胞であるとされていたが、最近は、ガン細胞をとり巻く環境、つまり生体全体の状態によって、増殖の勢いなどが、かなり影響を受けているのではないだろうかと考えられている。時には、がん細胞があるのにもかかわらず、生体全体のコンデ ションを整えることによって、ガン細胞の増殖が止まったり、なかには、消失する可能性もあるとさえ思われる(BRM)。つまり、漢方薬で全身の状況をよい状態に保つことによって、ガン細胞の増殖などを抑制することもありえるということである。 

 

免疫と漢方について

免疫療法とは
体の免疫力が低下するとガンになりやすくなる。それで、免疫システムを補強することによって、ガン細胞に働きかけ、ガンの力を弱めようとする療法。
ガン細胞は、もともと自分のものだった細胞が変化してできたものである。だから免疫系に早く気ずかせ、ガン細胞を認識してもらわなければならない。そして、リンパ球の中のキラーT細胞(ガン細胞を殺してくれる細胞)を増殖しガン細胞から体本体を守ってもらう必要がある。

漢方薬では
漢方薬が免疫応答を修飾する可能性については、今までに、多くの報告がなされている。可能性として、リンパ球のT細胞の活性化、B細胞の活性化、マクロファージの活性化NK(ナチュラルキラー)細胞の活性化、サイトカイン産生の増強などが含まれる。

漢方処方の補剤の中で補中益気湯十全大補湯人参養栄湯が、免疫能の改善する処方として、特に、NK活性の増強、BRM作用の増強のために、使われ始めている。

  

済木(富山医科薬科大学)氏の報告

「マウスの動物実験において、十全大補湯のガン細胞転移抑制機序は、マクロファージを活性化してサイトカインを放出し、T細胞を活性化して、抗潰瘍作用を発揮する。または、マクロファージそのものがエフェクターとして殺潰瘍効果を発揮することが推測された。補中益気湯のガン細胞転移抑制機序を検討してみると、NK細胞の活性化を介して、抗潰瘍効果を発揮すると考えられた。」と報告している。

マクロファージとは
単球系の細胞であるが、腫瘍細胞の抗原を認識して活性化し、貪食したりサイトカインやフリーラジカルを産生して坑癌作用を示す。また、T細胞に癌細胞の抗原を提示し、坑癌免疫機構を活性化させる作用もある。

NK(ナチュラルキラー)細胞とは
リンパ球の一種であるが、抗体を介して、または直接癌細胞を認識して強い細胞傷害活性を示す。

  

漢方医学(1999.SeptemberVol.23No.5)     「婦人科癌治療と漢方」より   
      丹羽憲司(岐阜大学医学部産婦人科)先生  

現在、抗癌化学療法後の副作用である血小板減少症に対しては有用な薬剤がありません。
現在までにTPO,IL-6,IL-11の治験が行われていますが、まだ市販されていませんので、最終的には血小板輸血しか方法がないというのが現状です。そうなる前になんとかしなければなりません。
私達の施設では、次のように、対処しています。
化学療法後に、血小板が10万/μL以下になった患者さんを対象に十全大補湯をメインに使って治療を試みました。血小板が10万/μLを切った段階で、十全大補湯7.5g/日投与で開始しました。
7万/μLから5万/μLぐらいになった患者さんには、症例により十全大補湯を2倍量の15g/日に増量して、M-CSFを800万単位、2バイアルで併用投与しました。さらに、それ以下になり、5万/μLから3万/μLになると入院してもらいました。3万/μL以下になりますと、出血傾向など臨床症状をみて血小板輸血を考慮するようにしています。
血小板が10万/μL以下になった症例30例で検討しましたが、2例は残念ながら血小板輸血となりました。
残り28例はこの方法で血小板輸血をせずにすみました、血小板輸血をした2例は高齢の方(70才、73才)でしたが、全身状態の悪い患者さんでした。
脊髄抑制に対する補助療法としての漢方薬は、一般に十全大補湯よりも、加味帰脾湯、人参養栄湯の報告が多いと思います。

この
3処方を比較しますと、

十全大補湯は
その構成に四君子湯、四物湯の2処方がふくまれており、さらに黄蓍と桂皮を加えた「気血両虚」の状態に用いる処方です。

人参養栄湯は
十全大補湯と似ていますが、十全大補湯から川キュウを除き五味子、黄蓍、陳皮を加えた構成になっています。「気血両虚」の状態で呼吸器、胃、消化器、精神症状を伴う場合に一般的に使われる処方です。

加味帰脾湯は
四君子湯系で「気虚」の状態を補う」補中益気湯に精神神経症状に対する作用を補給した処方です。

私達の施設が主に
十全大補湯を使用するようになった理由は
これまでに十全大補湯が抗潰瘍効果、転移抑制作用があると言う報告が多く見られるからです。最近の文献でも、漢方薬によるラット癌の転移抑制効果を調べた報告ありますが、それによれば、十全大補湯と四物湯が著明に転移抑制作用を示したのに対して、四君子湯は、ほとんど影響しなかった、ということです。そして、転移抑制効果も十分期待できる十全大補湯を使うようになりました。

  


 
漢方処方(補剤)

特に、補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯の3処方は、マクロファージやNK細胞の活性化に大きく関与していると考えられる。また、血液ATK細胞活性を誘導または増強するとも報告(内田温士「自己腫瘍細胞傷害(ATK)活性の医学的意義とその誘導による新しい癌治療」Medical Immunology)されている。

  • 補中益気湯
    人参、白朮、黄蓍、当帰、甘草、柴胡、陳皮、大棗、生姜、升麻

  • 十全大補湯
    人参、蒼朮、黄蓍、当帰、甘草、茯苓、芍薬、地黄、桂皮、センキュウ

  • 人参養栄湯
    人参、蒼朮、黄蓍、当帰、甘草、茯苓、芍薬、地黄、桂皮、陳皮、遠志、、五味子、

  • 加味帰脾湯
    人参、蒼朮、黄蓍、当帰、甘草、茯苓、柴胡、遠志、生姜、山梔子、大棗、木香、酸棗仁、竜眼肉

タイプ

漢方処方

症  状

中間症

人参養栄湯

 胃腸の働きが低下・体力の低下

十全大補湯

虚証

温清飲

 皮膚のカサカサ・血色が悪い

柴胡清肝湯

補中益気湯

 虚弱体質、、疲れやすい

小建中湯

女性

当帰芍薬散

 血行が悪い、生理不順

桂枝茯苓丸

     

日刊スポーツ/漢方薬入門から

悪玉と決めつけず共存さぐる  ガ  ン


「東洋医学では、ガンを悪玉として決めつけず、いかに生体のガンと共存していくことができるかを考えながら漢方治療を行う。いずれ人間は死ぬのだから、それまでの生の時間をよりよく生きられるよう、体の痛みや心の苦痛をいかに楽にできるかを考えることが大切だ。外科手術で取り除ける腫瘍(しゅよう)は切除するが、苦痛の多い抗ガン剤治療は最低限にして、あとは患者一人ひとりの症状や訴えに応じて、生薬をさじ加減しながら治療にあたっている」と加賀屋病院の三谷和男院長は話す。

加賀屋病院は漢方専門病院(内科)で、外科手術はほかの病院で行うが、そのあとの患者のフォローアップを行う。
「漢方薬でガンが治ったという記事をときどき目にするが、結果的にガンの進行を遅らせ、寿命を延ばすことが可能であっても、『不老長寿の薬』や『聖薬』があるわけではない。ガン患者の訴えはさまざまで、背景にほかの病気を抱えていることも多く、病人の全体像を見極めて治療していくことが大切だ。身体的な疾患のみならず、精神的なストレスや患者を取り巻く生活環境を見つめておくことが医師に求められる。ガンによる死亡は多いが、今やガンにかかったからといって必ずしも『死に至る病』ではない。苦痛を和らげ、よりよい生をもたらすため、漢方治療の果たせる役割はある。現代医療はどうしてもガン細胞レベルを問題にしがちで、病人としてのトータルな面における配慮に欠ける治療が行われる場合が少なくない。病人の全体像を見つめて漢方治療を行うことで、結果としていろいろな器官の障害を取り除くことができる」(三谷院長)。

21世紀のガン治療は西洋医学を中心にしながら、東洋医学をはじめとする代替(だいたい)医療を取り入れたホリスティク(総合的)医療が求められる。

  

日刊スポーツ/漢方薬入門から

術後の体力、免疫機能低下を改善 : ガン治療の補剤


現在の標準的なガン治療としては、腫瘍(しゅよう)部分の外科的手術を行い、ガン細胞をたたくための放射線治療や抗ガン剤治療が行われる。臓器の摘出を行うと、体力が低下し、免疫機能が低下する。そのため、食欲不振や下痢など胃腸機能の低下、貧血、肝障害などが起きる。また、抗ガン剤の副作用として吐き気や全身けん怠感などの症状が出る。

東洋医学では手術を行うことで、身体的エネルギーが低下し、気力が低下することを「気虚(ききょ)」ととらえる。また、そのため栄養状態が低下し、貧血になることを「血虚(けっきょ)」と呼ぶ。「虚」に傾いた心身の状態を改善し、免疫力をアップさせることを目的に、漢方治療では「補剤(ほざい)」と呼ばれる処方が選択される。
補剤とは
本来生体に備わっている免疫力や造血機能、消化機能を引き出して活性化させる漢方薬だ。補剤とは漢方特有のもので、西洋薬にはない働きがある。

加賀屋病院の三谷和男院長に、がん治療に使われる補剤について聞いた。
「補剤の代表的な処方としては、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)などがある。補中益気湯は手術後や病後に体力が低下した人で、全身けん怠感や食欲不振を訴える場合に用いる。十全大補湯は補中益気湯を使う人より、もっと体力が低下し、疲労や衰弱が激しい場合で、貧血や皮膚の乾燥がある場合に用いる。これらの漢方薬は患者の体質や症状に応じた「証(しょう)」に基づいて処方する。いまのところ、ガンそのものに有効な漢方薬はないと考え、個々のさまざまな愁訴に応じた『随証(ずいしょう)治療』を行うことが漢方治療の基本的な原則だ」。

    


健康補助食品では

免疫能を向上させてくれるという観点からすると、いろいろある健康補助食品の中で、自分にあった健康補助食品を食べ物として補充することは、好ましいことかもしれない。


  

       講演会 要旨

[ガン予防と食事について]  

北里大学  児島 脩


昭和25年頃までは日本での死亡率の1・2・3位は肺・気管支炎、胃腸炎、結核の順であったが、昭和50年を境に脳血管障害、悪性新生物、心疾患が上位を占めるようになり、昭和55年以後は悪性新生物がトップを占めるようになった。また昭和30年から平成3年までの男・女それぞれの悪性新生物の総数は、男性はやや増加傾向にあり、女性は逆にやや減少傾向にある。更に、臓器別死亡率からみると、男性では胃癌は減少しているが、肝臓、大腸癌、気管支および肺癌、肝外胆管や胆のう癌や白血病が増加している。

一方女性では、胃癌、子宮癌、肝癌、食道癌などは減少傾向を示すが、乳癌、大腸癌、胆のう、及び肝外胆管癌は増加している。このような癌による死亡率の上昇をふまえ、1978年国立ガンセンターからは「ガン予防の12か条」が、1978年には厚生省から「ガン予防の観点からの提言」として「疾病予防のための食生活についての提言」が行われた。これらは、バランスのよい食事を心掛け、食べ過ぎに注意し、脂肪や塩分を控え目にし、お酒はほどほどに、タバコは止めビタミンや繊維質のものを多く摂り、日光にあたり過ぎず、スポーツをし体を適度に動かし、体を清潔に保て、ということでおおむね一致している。
また一日、30品目摂取せよということが言われたのもこの時である。そして厚生省など公的機関は、かなりはっきりとしている事柄については今後もアピールをどんどん、していってもらいたいと思う。
三石(物理学者)は
活性酸素の発生量をできるだけ抑えるべく、過酸化脂質や添加物や農薬を含む食品は避け、カロチノイドを多く含む食品を勧めるほかVC、VB2、VEなどは食品以外からも追加して摂るようにと提唱している。
光岡(ビフィズス菌の研究者)は
ビフィズス菌を増やし、規則正しい排便に心掛けて、食生活については、一日一日、個々の食品に含まれる成分に促われると、それがかえってストレスになりかねないので、一週間位の単位で考えようと提唱している。


   悪玉菌とは

高蛋白食を摂ると、消化の過程でアミノ酸に分解されるが、野菜などに含まれる無機の亜硝酸と結合しさらに悪玉菌の働きでニトロソアミンが作られる。これは発癌促進物質である。
高脂肪食品を摂ると、胆汁酸の分泌が増えるが、ここに悪玉菌が作用すると発癌促進因子である二次胆汁酸が作られので注意が必要である。昭和21年から平成4年までの栄養素別摂取構成比をみると糖質は減少し、蛋白質はやや増加傾向を示すが脂質の摂取量は実に3倍以上となっている。 さらに1958年から1965年にかけてのアメリカで、酒・タバコをやらず野菜中心食を摂っているある宗教団体における調査結果では、呼吸器口腔・食道・膀胱癌の発生は全米の癌発生率と比較すると、その50%以下であり、消化器癌や白血病も60%〜70%と低率を示している。やはり食物や嗜好品による癌発生への影響が指摘される。


   脂肪酸について

1.飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、2.リノール酸、3.リノレン酸に分類される。このうちリノール酸は悪玉コレステロールを減らし善玉コレステロールを増やすなどとして大変に推奨され、コーン油、ベニバナ油など、現在も非常に多く使われている。そしてリノール酸は体内でアラキドン酸に変化し、そのavailabity(AA+A)が高まるとエイコサノイドは人間の生活様式により悪玉にも善玉にも変身しうるとの事である。つまり、古代、リノール酸摂取の極めて少ない時代では、出血に対する止血として、寄生虫感染に対してもエイコサノイドが炎症をおこし寄生虫を攻撃する。つまり善玉として作用するが、摂取量が増大した現代ではエイコサノイドの過剰が血管内で血液を固め、その結果、心筋梗塞や脳梗塞を惹起し、更に花粉やダニなどに対する不必要な反応(アレルギー)にも関与する。つまり悪玉として作用するという。また、過剰のリノール酸は消費しきれず、体内にたまり、若年者の肥満の原因になるほか、長寿社会となっている現在では、癌の下地を作るもとしても問題である。日本人の頭の良さはα−リノレンを多く含む魚類を多く食べることによるのではないかという報告例があるが、魚離れが進んでいるようなので今後はどうなるかである。総じて癌に対しては、塩分、脂肪分、強いアルコール摂取に注意しなければいけない。


     食品の機能には

(T)栄養素としての一次機能、(U)味覚としての二次機能、(V)生体調整としての三次機能がある。

        (V)の生体調整としての三次機能について

1.生体防衛 
(イ)アレルギー低減食品(キチン・シソ)(ロ)免疫賦活食品(霊芝、プロポリス)(ハ)リンパ系刺激食品(V.A)
2.疾病への防止
(イ)高血圧防止食品(低塩化食品、大豆、そば、いわし、アルギン酸)(ロ)糖尿病防止食品(低脂肪食品、AHCC)(ハ)坑腫瘍食品(レンチナン、PSK、サメ軟膏)
3.疾病の回復
(イ)コレステロール抑制食品(キチン、タウリン)(ロ)血小板凝固防止食品(EPA、DHA) (ハ)造血機能調節食品(VC、VE、ヘムFe)
4.体調リズムの調節
(イ)神経系(中枢)調節食品(茶、コーヒー)(ロ)神経系(末梢)調節食品(プロポリス)(ハ)吸収機能調整食品(ギムネマ、CPP+C+ヘムFe、VD2食物繊維)
5.老化防止食品
(イ)過酸化脂質生成抑制食品(VC、VE、グルタチオンカロチン)等がある。

体質による適合性(アレルギー)などとの兼ね合いもあるが単に癌予防という観点からだけではなく、その回復や再発、転移防止という面からも(V)の食品は利用すべきではないだろうか。