「東洋医学では、ガンを悪玉として決めつけず、いかに生体のガンと共存していくことができるかを考えながら漢方治療を行う。いずれ人間は死ぬのだから、それまでの生の時間をよりよく生きられるよう、体の痛みや心の苦痛をいかに楽にできるかを考えることが大切だ。外科手術で取り除ける腫瘍(しゅよう)は切除するが、苦痛の多い抗ガン剤治療は最低限にして、あとは患者一人ひとりの症状や訴えに応じて、生薬をさじ加減しながら治療にあたっている」と加賀屋病院の三谷和男院長は話す。
加賀屋病院は漢方専門病院(内科)で、外科手術はほかの病院で行うが、そのあとの患者のフォローアップを行う。
「漢方薬でガンが治ったという記事をときどき目にするが、結果的にガンの進行を遅らせ、寿命を延ばすことが可能であっても、『不老長寿の薬』や『聖薬』があるわけではない。ガン患者の訴えはさまざまで、背景にほかの病気を抱えていることも多く、病人の全体像を見極めて治療していくことが大切だ。身体的な疾患のみならず、精神的なストレスや患者を取り巻く生活環境を見つめておくことが医師に求められる。ガンによる死亡は多いが、今やガンにかかったからといって必ずしも『死に至る病』ではない。苦痛を和らげ、よりよい生をもたらすため、漢方治療の果たせる役割はある。現代医療はどうしてもガン細胞レベルを問題にしがちで、病人としてのトータルな面における配慮に欠ける治療が行われる場合が少なくない。病人の全体像を見つめて漢方治療を行うことで、結果としていろいろな器官の障害を取り除くことができる」(三谷院長)。
21世紀のガン治療は西洋医学を中心にしながら、東洋医学をはじめとする代替(だいたい)医療を取り入れたホリスティク(総合的)医療が求められる。